「金木犀の香る公園で」

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六峰山の麓に小さな公園がある。

朝方、東の空から太陽が昇り、人々が起きて朝餉の支度をする頃。

秋頃の柔らかい日差しを浴びて、木に花が咲き、心を落ち着かせる香りがそこら辺に漂う。

彼女に出逢ったのも、この季節の満ち溢れた光の中で。

太陽の光をいっぱいに浴びて。

今年の夏は、南方海域のエルニーニョ現象の影響を受けて、これ以上ないくらいの猛暑であった。世界的な温暖化の傾向から、台風の威力も増してきている。昨年の台風十五号は猛烈で、県内にも大きな爪痕を残した。屋根に張られたペラペラのブルーシートが風にたなびく姿はほとんど見ることがなくなったが、所々剥き出しになった屋根板が、痛々しそうに潮風を正面から受け止めている。「康平、はよ起きんしゃい。」母さんが、布団をはぎ取る。「はよ起きて支度せにゃ、父さんが待っとるで。」母さんは急な板張りの階段を下りて台所へと戻っていく。包丁がまな板を叩く音が響き渡る。煮干しの出汁の匂いがする。もう少し、と布団へもぐりこむと、母さんの甲高い声が聞こえた。「康平、なんばしよっとね!はよ起きんさいね。」康平は、慌てて布団から飛び出して学ランを羽織った。ありふれた日常の朝の一コマに、庭先の金木犀の香りが花を添える。