限りなく求める

姫ちゃん、加速度って知ってるかい?

「加速度?」

加納美姫。通称、姫ちゃん。

姉の子供で、姪っ子に当たる。

夏休み、実家に帰省することになって、おばあちゃんの住むこの家を訪れている。

来春、中学受験を控えた、中学三年生。

「そうだよ、加速度。」

「文字通り、ある区間に増減した速度の量を表している。」

「なんか難しそうな話だね。」

姫ちゃんは、手にした漫画本から目を離さずに、口だけを動かして呟いた。

「N高の受験には出る話なんだけどな…。」

姫ちゃんには、最近、憧れの先輩がいるらしい。

その先輩が、バレーボールのスポーツ推薦で入った文武両道の進学校への進路を目指していると聞いている。

喰いついたっ!

僕は、姉から、姫ちゃんの勉強を見てくれとせがまれていた。

「なに!ホントっ!」

読んでいた漫画を投げ出して、僕の机のわきのパソコンデスクの椅子を取り出して、透き通った眼でこちらを見つめている。

「それってどうやって解くの?」

やれやれ、せっかちなところは誰に似たのか?困ったものである。

「まず、その前に二次関数のグラフからだ。わかったかい?」

「うん。」

「何事も基本が大切なんだよ。」

こうして、夏の特別授業の幕が切って落とされた。