ビジネススーツ

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 私は東京への通勤人口率10%程度の田舎町に住んでいる。普段、都内に行く用事などがなければ、電車に乗ることはない。東武スカイツリーラインが通る春日部あたりまで出ると、スーツ姿のサラリーマンに電車の中に居合わせる。男性のこのスーツ姿に憧れて、若いころは東京に勤めるサラリーマンになりたいと願ったこともある。

 このスーツにも、色々流行廃りがあるようで、近年、細身の男性がスラリとした体形に合わせて、スマートなデザインのスーツが流行っているようにも思える。少々お腹が出てきた筆者には縁遠いファッションだが、髪にポマードをつけて分け目をつけ、先の尖った茶色の革靴をカタカタいわして闊歩する様子は、清潔感も彼が持っているだろうビジネススキルも私などがかないっこない都会派である。

 先日、中国は北京を訪れた。開放経済から、飛躍し、大きな経済改革が行われた中国。2008年にはオリンピックが行われ、近代化の波が押し寄せた。私が宿泊した王府井界隈では、中国国内からの観光客で賑わっていた。なんともスケールの大きい街で、一区画が日本の倍もあろうかと思われるような距離感である。碁盤の目のような街であるため、通りと通りがぶつかる交差点には、名前がついているので地図で確認しながら歩けば迷うことはないのだが。そんな中、あることに気が付いた。スーツ姿の男性がいない。全くいないのである。東京では、駅などにわんさか群がるあのサラリーマンの大群が、微塵も見えない。朝晩の通勤ラッシュ時でさえもそうである。中国のことをよくわかっていないせいもあってだろうか。政治の北京と経済の上海などと呼ばれることはよく知ってはいる。それだって、さほど違いはないはずだ。しかしながら、首都における男性ファッションの在り方が、日本と中国では、こんなにも違うものかと思った。

 就活時代、「スーツが仕事をするわけじゃないぞ。」と、よく父に言われた。父は形をそれほど気にしない。そんな質であったので、反感を抱きながら半分冷めて聞いていた部分もある。そんな父も、15年に渡る中国駐在生活を終えて隠居生活を送っているが、相変わらず、形より実を取る考え方の人で、初見の者に対する洞察力に秀でている部分は、私も認めるところである。戦後の経済復興を支えてきた日本のサラリーマンらしい人生観を、今の若い人にわかってもらえるだろうか?そういう方たちに支えられている今の便利な社会生活であろう。